乳がんの治療

症状

主な症状
  • 乳房のしこり
  • 乳房のひきつれ・くぼみ
  • 乳頭のただれ・分泌物
  • 乳房の形が左右非対照になる

乳がんの主な症状は、乳房のしこりです。他には、乳房のひきつれ・くぼみ、乳頭や乳輪の湿疹・ただれ、乳頭から分泌物が出る、などがあります。

脇の下のリンパ節にがんが転移すると、脇の下の腫れやしこり、しこりによる神経の圧迫からくるしびれなどを生じることもあります。

乳がんは日頃のセルフチェックで見つけることができます。入浴や着替えのときなどに、自分の乳房を見たり触ったりして、セルフチェックを行いましょう。早期発見のためにも、異変を感じたら専門医に相談しましょう。

診断方法

主な検査
  • マンモグラフィー
  • 超音波検査
  • 組織検査

視診・触診、マンモグラフィー、超音波検査および組織検査で診断をつけます。自己検診や定期的な超音波やマンモグラフィーなどの検査によって、乳がんが見つかることがあります。

マンモグラフィー

マンモグラフィー画像

自己検診で見つけてこられた患者さんのマンモグラフィー、大きな腫瘤が確認されます。

マンモグラフィー画像

自己検診では、発見されず、マンモグラフィーで見つけられた早期がん(乳管内がん)

超音波検査および組織検査

生検針が腫瘍にしっかりと当たっていることを超音波で確認します。組織検査は超音波検査でしこりを観ながら細い針にて行います。
また、同時にエストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプターや、HER2レセプターなど、治療に必要な検査を併せて行います。

  • 検査に要する時間は10~15分程度です。
  • 局所麻酔をしてから行いますので、痛みが少ないです。

治療方法

化学療法

対象
  • 乳房温存手術が困難な浸潤性乳がんで乳房温存手術を希望する場合
  • 再発リスクが高い場合 (腫瘍が大きい、高度なリンパ節転移を認めるなど)
  • 再発がん・切除不能がんの場合

術前化学療法

腫瘍が大きく乳房温存手術が困難な浸潤性乳がんで乳房温存手術を希望する患者さんに対して、温存率向上を目的に術前化学療法を奨めても良いとされています。(ガイドライン推奨グレードB)

術前化学療法は術後化学療法に比べて同等の生存率が得られ、乳腺全摘率の低下と局所再発率の低下が認められています。がん種の特徴(ホルモンレセプター、HER2レセプター、Ki-67など)によって、使用する薬剤は様々です。

「抗がん剤は非観血的な治療なので、手術よりも楽なのでは?」と良く言われますが、どちらも楽な治療ではありません。手術は目に見えるものを切除しますので、その意味では安全と言えますし、抗がん剤は目に見えないところで危険な副作用をもたらす可能性があり、それは時として命に関わることがありますので、その意味でも危険と言えます。
たとえ、腫瘍が著しく縮小しても、基本的には手術が必要です。抗がん剤だけでの完治は難しいと考えられます。また、抗がん剤によって脱毛を生じることが多いですが、最近はウィッグ(医療用かつら)の品質も向上しています。詳細は看護師さんにご相談ください。

術後化学療法

リンパ節転移陽性の乳がんに対して、アンスラサイクリン系抗がん剤にタキサンを併用する化学療法が推進されています。(ガイドライン推奨グレードA)

HER2陽性乳がんに対する術後の化学療法+トラスツズマブが推奨されています。(ガイドライン推奨グレードA)

高齢者でも余命期間、臓器機能、併存疾患を考慮し、効果と副作用のバランスを熟慮した上での術後の化学療法が推奨されています。(ガイドライン推奨グレードB)

ホルモンレセプター(ER, PgR)陽性、HER2陰性、 Ki67低値の乳がんは、一般に予後良好であり、化学療法の再発抑制効果が低いことが示唆されています。しかし、腫瘍が大きい、高度なリンパ節転移を認めるなど、再発のリスクが高い症例では、術前・術後の化学療法が推奨されています。(ガイドライン推奨グレードB)

再発がん・切除不能がんの化学療法

転移(切除不能)・再発乳がんは、局所再発を除いては治癒は極めて困難です。化学療法後の10年生存率は5%程度です。従って、再発がん・切除不能がんに対する治療の目指すところは、生活の質(QOL)を維持・改善した上での延命ということです。

患者さんの個別性、患者さん・ご家族の希望、これまでに証明されている医学実証を熟慮して加療します。ホルモンレセプターンの状況、差し迫った生命の危険(life-threatening)、広範な肝臓転移や肺転移、がん性リンパ管症)の有無により化学療法の是非・内容を決めます。

がん再発を説明すると、「もう手術はできないのですか?」とよく、尋ねられます。「その手術で患者さんのQOLが向上する(局所のがん種の除去で痛み・出血・悪臭などの症状が緩和できる)可能性がある」場合は、行うことがあります。ただし、これはあくまで症状緩和の施術であって、再発がん種に対しては治癒を見込んでの手術ではありません。

放射線療法

対象
  • 乳がん術後の再発予防目的の場合
  • がん病変による痛みや筋力低下に対しての症状緩和目的の場合

乳がん術後照射

乳がんの治療としては主に手術、抗がん剤、放射線治療の3つがありますが、手術だけして経過観察した場合に、その近くからがんが出てくる、いわゆる再発の可能性があります。この再発予防のために手術後に放射線治療をすることが一般的となっています(状況によりしない場合もあります)。再発予防ですので手術した側の乳房(状況によっては鎖骨周りも)に放射線治療を行います。

当院では25回または30回(およそ1ヶ月ちょっと)の治療を行います。副作用として多く見られるものは、放射線をあてた部位にでてくる皮膚炎(日焼けのようなもの)がありますが、ひどくなった場合は塗り薬で対応します。放射線治療後に出てくる可能性のあるものとして放射線肺臓炎、上肢のむくみなどが挙げられます。

緩和照射

乳がんが進行してくると遠隔転移といって乳房以外の場所にがんが飛んで、大きくなることがあります。乳がんの場合は脳、肺、肝臓、骨などによくみられますが、これらの転移により生じた症状に対して放射線治療を行います。症状緩和が主目的ですので副作用が少なくなるよう放射線量は術後照射に比べて少なめです。期間としては1~2週間程度です。